正しき納税者意識とは

高さ15メートルの雪壁とはいかなるものか。立山は室堂の前に大きな雪の吹き溜まりがあり、立山黒部アルペンルートはそこを貫通している。雪の大谷と称す。





5月1日より、観光バスが直接に室堂に登ってくることが出来るようになった。その初日に雪の大谷を体験すべくバスツアーを申し込んでおいた。富山地方鉄道で立山駅へ・ケーブルカーで美女平へさらに高原バスで室堂へ赴くルートが本来ではあるけれど、定員わずか70名のケーブルカーに数千人が殺到するから、下手をすると3時間待ちなんてことになる。

われら大阪人はケチではあるけれど、time is money の感覚も尋常ではない。無為の時を過ごすことをほとんど宗教的に忌避する傾向がある。この性癖を irachi  というそうである。だから数千円を投じて観光バスで直接アタックするルートを選択した。




美女平を通過したバスは、弥陀原ホテルで小休止した。宝くじで言うと1万円を引き当てるくらいのレアな確率で晴天に恵まれたので、かような絶景をふんだんに目にすることができた。日ごろの行いがいかにまっとうであるか、天なり神なりが冷静に評価してくれていたものと感謝した。

ただ雪原の照り返しはあまりに強く、室堂の売店でめがねに取り付けるタイプのサングラスを購入せざるを得なかった。よろず山小屋でモノを買うとむかつくくらいに掛値がしてあるものだけれども、
サングラスは普通の値段だった。1575円の投資。鏡で自分を見るについて思へらく、どうして俺の顔は色付きメガネになっただけでこうも無所属系国籍不明アジア人になってしまうのかしらん。





室堂の雪原である。我々の乗ったバスはこの日の第8便くらいだったらしく、山にはまだ人影が薄かったことはさいわいであった。このあと蟻の行列のごとくバスが続々到着して、数刻のうちにここも人だらけになってしまった。おまけに半数以上が日本人以外だし。

パーセンテージでいってみると、富山県民20%他府県民30%中国・台湾30%インドパキスタン15%その他の外国人10%地球人ではないかもしれない人種不明5%ってところだった。インド人は零下二度のこの地でもサリー姿でいた。殿方は半袖シャツである。鈍感なのかタフなのか。




このあたりが地獄平。かつての火口である。ここが大噴火して元来は褶曲山脈であった立山連峰が巨大なカルデラとなった。そこで生成された脆く割れ易い火成岩の剥落と流出で、常願寺川は砂防工事なしに成立しない水系となった。県なり国なりが破産して工事がストップしてしまうと、億トン単位の岩石が富山市内に殺到して、人々が数百年をかけて造成した市街は瓦礫の集積と化す。税金だけはきちんと払っておこうと思う。少なくとも富山県民であるうちには。



室堂から半キロばかりは対面通行になっており、車線の片方はカメラを提げた観光客の遊歩道となっている。折り返し地点にはボランティアがいて記念写真の撮影を手伝っている。この撮影ボランティアもバスの対面通行を手伝っている連絡スタッフにしても、あるいはボランティアではないけれどホテル立山のレストラン従業員にしても、みな「山が好き」の雰囲気が身についていて押し付けがましくない親切心が素敵であった。




人間一人くらい入りそうな巨大キスリングを背負った、テント生活&山岳スキーの方々もいた。シティボーイを信条とする私なんぞにはそのモチベーションがどうしても理解できない。




帰途に立ち寄った称名滝。常願寺水系の濫觴である。バスやクルマの停車場からアップヒルで30分かかる。しかし歩いたことだけあって、これまた見事な風景だった。

ちなみに、立山駅のレベルから上には乗用車乗り入れ禁止となっている。まああの峻険な道を下手なドライバーが運転したら、500メートルの谷を滑落して遺体捜索も断念、という悲喜劇になるのがオチというものだが。それに第一、どこにでも駐停車されて、植生を荒らすわ雷鳥に石を投げるわタバコの吸殻を放置して山火事を起こすわではたまったものではない。いい見識である。



滝壺の方から下流を展望するとかような景色である。この斜面をイワツバメでも飛んでいれば更に風情も増すのだけれど、実際に飛んでいたのは富山県所属らしいジェットへリ、エアロスパシアルアルーエトⅢ(多分)であった。山岳救助も多いのだし、もうちょっといいヘリを購ってもいいのではないか。30年前の機材ではねえ。優秀従順な納税者もいることだし。

朝7時50分に富山駅集合で18時解散と、ほとんど一日をすごしたのだけれど、いい休日となった。冬の間にゴルフもできず、身体がなまっていたせいで随分と足腰が疲れてしまった。夜、熟睡できたことは言うまでもない。登山やキャンプはしんどいけれど、せっかくそこに山があるんだし軽いハイキングくらいしてみようかな。

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