8月31日といえば 読書感想文の思い出
宿題嫌いの私は、小中高と12年の長きにわたって提出物をきちんと出すことが苦手であった。
高校時代、地理Bの教師が希代の阿呆で、生徒全員に毎週日曜日の21時から放送されるNHK教育テレビ「地理B」を視聴し、翌朝に放送内容をノート2頁以上にまとめて提出させることに生き甲斐を感じていた。
なにしろ中間テスト期末テストで100点を取っても、この番組視聴レポート提出が5回以上欠落すると問答無用で落第になるのである。高等学校は学力涵養をするためのものであり、堅忍不抜の精神を鍛えるところではない。
おまけにこの教師はおめでたいことにルイセンコ学説の信奉者であり、「植物は鍛えれば強くなる」などと獲得形質が遺伝形質となるトンデモ科学を授業で真剣に説いていた。スターリンの御用学者の楽天的植物学が、北の大地を沃野へ転換すると信じていたらしい。
そのような馬鹿でも教師が務まったのだから、昭和の御代は平和であったと言えよう。おかげで私は危うく進級し損ねるところであったが。
そして読書感想文である。丸谷才一は「子供に読書感想文を書かすな」「子供に詩を書かすな」と著作中で主張している。まったく同感である。読書感想文とはまさに文芸批評にほかならず、対象となった本はもちろんのこと、時代背景、著作者の思想まで把握したうえで述べられてしかるべきものだろう。年端もいかぬ教養なきガキは、単に「おもしろかった」「たいくつした」ぐらいしか、普通言えないはずである。
「おーい水島、いっしょに日本へ帰ろう」の「ビルマの竪琴」。小学5年の折に、これを題材に読書感想文を書いて、毎日新聞の小学校読書感想文コンクールに入賞した。あたりまえの話で、当時有楽町にあった某新聞社の政治記者をやっていた父親が、何を書いているのかわからぬ私の悪文に手を入れて換骨奪胎したものを提出したのだから。賞状などは散逸してしまったが、どうにも毎日新聞から詐取したような罪悪感が抜けず、いまだに中央紙では毎日を贔屓としている。
白戸家のお父さんこと北大路欣也が、ドラマで主人公の広田弘毅を演じていた。東京裁判において、軍人以外ではただ一人絞首刑なった外交官出身の首相の物語である。大正から昭和へ、太平洋戦争へと転がっていく日本を、文官政治家の苦闘(軍部・統帥権との闘争)を描いた大作。中学2年の8月31日、読書感想文に困った私が、その夏に最も感動したこの本を題材に「大義と死」についてまともに考えて書き上げた。
しかしここにも困ったちゃんの教師がいて、「城山三郎はビジネス小説家だから、あなたが読んだこの本は文芸作品じゃないわ」と言って私が夏休み最終日に苦吟の末に書き上げた感想文を無効としたうえで、教師好みの「文芸作品」を読んで再提出することを求められたのである。
カミュの「ペスト」とか、阿川弘之の「山本五十六」とか、その辺の本を題材にするとまたイチャモンをつけられそうだったので、武者小路実篤の「友情」にした。不要な摩擦は避けるタチなので。
しかし馬鹿ですねえ。読みもしない本をビジネス小説家だから文芸じゃないなんて。8月31日が来ると、校則を守らせることだけに熱心だった、この低能無比の女教師を思い出す。
高校時代、地理Bの教師が希代の阿呆で、生徒全員に毎週日曜日の21時から放送されるNHK教育テレビ「地理B」を視聴し、翌朝に放送内容をノート2頁以上にまとめて提出させることに生き甲斐を感じていた。
なにしろ中間テスト期末テストで100点を取っても、この番組視聴レポート提出が5回以上欠落すると問答無用で落第になるのである。高等学校は学力涵養をするためのものであり、堅忍不抜の精神を鍛えるところではない。
おまけにこの教師はおめでたいことにルイセンコ学説の信奉者であり、「植物は鍛えれば強くなる」などと獲得形質が遺伝形質となるトンデモ科学を授業で真剣に説いていた。スターリンの御用学者の楽天的植物学が、北の大地を沃野へ転換すると信じていたらしい。
そのような馬鹿でも教師が務まったのだから、昭和の御代は平和であったと言えよう。おかげで私は危うく進級し損ねるところであったが。
そして読書感想文である。丸谷才一は「子供に読書感想文を書かすな」「子供に詩を書かすな」と著作中で主張している。まったく同感である。読書感想文とはまさに文芸批評にほかならず、対象となった本はもちろんのこと、時代背景、著作者の思想まで把握したうえで述べられてしかるべきものだろう。年端もいかぬ教養なきガキは、単に「おもしろかった」「たいくつした」ぐらいしか、普通言えないはずである。
「おーい水島、いっしょに日本へ帰ろう」の「ビルマの竪琴」。小学5年の折に、これを題材に読書感想文を書いて、毎日新聞の小学校読書感想文コンクールに入賞した。あたりまえの話で、当時有楽町にあった某新聞社の政治記者をやっていた父親が、何を書いているのかわからぬ私の悪文に手を入れて換骨奪胎したものを提出したのだから。賞状などは散逸してしまったが、どうにも毎日新聞から詐取したような罪悪感が抜けず、いまだに中央紙では毎日を贔屓としている。
白戸家のお父さんこと北大路欣也が、ドラマで主人公の広田弘毅を演じていた。東京裁判において、軍人以外ではただ一人絞首刑なった外交官出身の首相の物語である。大正から昭和へ、太平洋戦争へと転がっていく日本を、文官政治家の苦闘(軍部・統帥権との闘争)を描いた大作。中学2年の8月31日、読書感想文に困った私が、その夏に最も感動したこの本を題材に「大義と死」についてまともに考えて書き上げた。
しかしここにも困ったちゃんの教師がいて、「城山三郎はビジネス小説家だから、あなたが読んだこの本は文芸作品じゃないわ」と言って私が夏休み最終日に苦吟の末に書き上げた感想文を無効としたうえで、教師好みの「文芸作品」を読んで再提出することを求められたのである。
カミュの「ペスト」とか、阿川弘之の「山本五十六」とか、その辺の本を題材にするとまたイチャモンをつけられそうだったので、武者小路実篤の「友情」にした。不要な摩擦は避けるタチなので。
しかし馬鹿ですねえ。読みもしない本をビジネス小説家だから文芸じゃないなんて。8月31日が来ると、校則を守らせることだけに熱心だった、この低能無比の女教師を思い出す。
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