全国の主婦のあこがれダスキンさんっ!プロの掃除に声なく圧倒される。

越中富山へ転居してはや3年半。ほったらかしにしていたものがひとつ。台所のレンジフードとガステーブルである。まめに自炊をするほうだけど、揚げ物は絶対にやらないし炒め物も滅多に作らない。煮炊き専門だから台所もあまり汚れない。

会社の内規で3年めにはまたどっかに転勤かと、そのときに敷金からルームクリーニング代を引いてもらえばいいかと思っていた。

豈図らんや。移住歴は3年半を越して、さらに北陸新幹線のごとく延伸せざるべからざる状況となりつつある。さすがにレンジフードも私の魂なみに脂汚れがひどくなり、料理の上に廃油がポタリと落ちてきかねない状況となった。惨状を見上げてみるに、これは分解掃除しかないしシロウトの手に負える状態でもない。

プロに頼もう。なにごとにも正しいプロフェッショナリズムが存在する。電話するなら100番100番、地元のダスキンに見積もりをお願いした。学生時代にダスキンでアルバイトしていたので、あの会社の諸事徹底的であることは身に沁みて知っている。

レンジフードとガステーブルだけじゃなく、この際流し台に風呂場洗面台も徹底清掃しておこうと決意。平日の午前中なら多少安くもなりそうなので「大丈夫です、会社くらい。しょっちゅう二日酔いで半休していますから」などとウチの社長に聞こえたらえらい事になりそうなコメントまでしてしまった。

2月中旬の某吉日、午前9時から12時までと決行時間も固めて、静かにその日を待った。

いよいよ当日。女性5名のプロジェクトチームが定刻に到着した。みんな結構若くて、「お掃除おばさん」的な風情はない。会社の某F君だったら間違いなく携帯番号とメールアドレスを聞き出して合コンを申し出るに相違ない。私?来月53歳ですよ。そんな情熱は天空かなたに置き忘れてしまっております。


水まわりを他人に覗かれるというのは、ある種下着の中を見られているようなはずかしさがある。だから掃除の現場には呼ばれないかぎり立ち会わず、寝室で井上荒野の猫の本など読んで時間の経過を待っていた。そうそう途中で銀行とコンビニにも行ったな。代金は現金決済だし。二日酔いでトマトジュースが飲みたかったし。


拙宅の風景である。初老オトコのひとり暮らしなんてこんなもんだ。テーブルの乱雑さが生活感溢れておる。そんなことには眼もくれずに5人の女性は一心不乱に仕事に取り組んでいた。私の勤務態度とあまりにかけ離れていて、慙愧の念に耐えない。

左奥は暗いけれど風呂場で、連結式になっている髪の毛がやたらに絡みつくプラスチック製のスノコに取り組んでもらっている。全部で44ピースあるのをすべて分解して、汚れや付着物をしごき落とし、消毒液に漬け込んで洗う。私は先日そのスノコをひっくり返して見ただけで、これを綺麗にするなんて不可能であると判断したのだけど、見積もりに来た女性は「大丈夫です」と言ってのけたのである。おまけに黙々とそれを実行しているのである。

ああ労働とは尊きかな。マックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を思い出してしまった。非合理性を持った合理主義。

そして3時間がたち「作業終了しました」の声とともに実地検分となる。どう考えても入居前よりキレイになっている。風呂場なんかシャワーの掛具にこびりついた細かいクロカビまでそぎ落とされているし、レンジフードにはあまり見たくないけど自分の顔が映っている。

これがプロの仕事いうもんなんだな。声なき圧倒。気持ちよく代金3万5千円を支払った。

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