黄ぃそば

年の瀬・忘年会シーズンともなるとなぜかに心騒ぎ、ついふらふらと桜木町界隈に出没することになる。職場規模の大忘年会など遠い昔の話になってしまったし、せめて後輩同僚を誘い出してこのひととせを振り返る程度であるが。

ただクルマ社会の越中国では、ちょいと思いついて「今日ちょっと行けへん?」などと提案しても無理である。数日前に調整しなければならない。大阪で無頼きわまる生活を送っていたから転勤当初はとまどったけれど、今はそれも慣れてきた。

さて楽しく飲酒をすると人間どうなりますか。たぶん歓楽の度合いが高いほどに翌日の反省が深くなる筈である。起きられないような二日酔いなるほどには深酒をしないように自制しているものの、
朝からパンとかご飯がすすまないこともしばしば発生する。

だいたいにアルコールは脱水性の高さで悪名高き飲み物なので、そこそこに摂取した翌日は身体が水分を要求する。また肝臓がアルコールを分解する過程である種のアミノ酸を使うらしく、アミノ酸でもとりわけイノシン酸を欲しがることになる、と聞いた覚えがある。

呑んだ帰りにラーメンを食べたくなるのはスープがトリガラとかとんこつでつくられていて、イノシン酸の含有率が高いからのことで、生理的欲求としてはしごく自然なことらしい。ただ齢半世紀を刻まんとする身では、深夜のラーメンはよりひどい副作用で消化不良やら、一旦増えたら中々減らない体重増など引き起こすのでめったに食べない。帰阪したおりに「天下一品」に参上する程度である。

暮夜中華そばに親しまぬかわりに、朝になるとどうしても麺類が欲しくなってしまうのである。起き抜けからとんこつラーメンを食べる過激性も、無いことはないけどまあ概ねはうどん・そばの類が朝餉を飾ることになる。

先週末に中華風の鍋物を企てて、シメに食おうと日清食品の鍋物用生中華麺を購入していた。ところが鍋をさらえた頃にはすっかり満腹しており、シメが登場するゆとりが無くそのまま冷蔵庫に残存していたのである。賞味期限は迫ってくるしどうしたもんかと思っていた。

しかるに昨夜、かねてからの予定通り同僚と桜木町に進軍することとなり、まあ午前1時ころにご機嫌で帰宅したわけで。気持ちいい夜だったので、二日酔いではなかったもののやはり麺類が欲しい体調ではあったのである。

起き抜けに思へらく。生中華麺にはスープが添付されていない。所蔵のインスタントラーメンからスープを抜き取って使ってもいいけれど、それはどこぞの国の補正予算のごとく事態の先送りにしかならない。でも大丈夫。食料棚にはアレがある。

関西の誇る優れもの「ヒガシマルうどんスープ」があれば、うどんのつゆは簡単にできる。フリーザーには油揚げが常備してあるし、葱の在庫も充分。

雪平に湯を沸かして麺を投入、2分後に刻んだ揚げを入れ、一呼吸してからうどんスープを溶きこんでやる。葱をたっぷりと散らして食卓に運び、「特ダネ」など見ながら啜り込んでいくのである。もちろん七味など大量に振り込まねばならない。スパイスは寝ぼけている胃腸を目覚めさせる。それとうどんスープの袋には「250CCのお湯で」と書かれているけど、なーに、教条主義にはまる必要はない。私などは多目の湯で調理して、あとの味加減は「めんスープ」なるこれもすぐれものの液体調味料で行なうのである。

和風のうどんだしにも、鰹起源のイノシン酸がしっかりと含まれているから、つゆを吸っていくにつれて何やら身体も癒されていく気がする。味噌汁も軽い二日酔いにはもってこいだけど、啜りこむことによる肉体的快感があるぶんだけ、麺類のほうがこんな朝にはありがたい。

ところで、うどんだしに中華めんの取り合わせが珍妙に感じられるかもしれないが、関西には「黄ぃそば」とか「キーシマ」と言って、メジャーな存在ではないけれどきちんと存在している。JR姫路駅などでは駅のホームで販売しているぐらいである。別に姫路に隣接する滝野市に本社を構えるヒガシマル醤油の陰謀横暴ではなく、まだ電気冷蔵庫が普及する前に、うどん・そばが腐敗しやすいのにくらべて、かんすいを練りこんだ中華そばが保存性にすぐれていた事に注目した「まねき食品」の発明によるものである。

関西うどんの澄んだ金色のスープにたゆたう黄色い中華麺は、なかなかに色っぽい風情がある。瀬戸内文化圏の優しさを覚えずにはいられない。べつに日本海側越中方面の厳しい風土が生んだあの力作と比較する気はないけれど。

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