鎧は白いのである。

寝ぼけマナコを覚醒させるのに雪国の冬は最適かもしれない。昨日、暮色に雪の反映がきれいな富山市に帰ってきて、やっぱり北国の冬は見るに耐えるもんだと思った。コンビニの駐車場で、街灯に反射する掻き寄せられた雪の反映に、空から落ちてくるぼたん雪が照らされてこれもいいもんだと。



雪国の朝は静かなものである。真綿の切れ端を重ねたような、ふうわりとした結晶は音を吸い込むらしく、市街電車の鉄輪がきしむ毎朝の騒音が届いてこない。寝起きにベランダに立って撮影した松川沿いの風景である。いきなりこんなものを見せられれば誰しも覚醒するんじゃないか。

会社へ行くのに、矛盾する表現だけど短いゴム長を履いて路面を探りながら歩いた。車の轍をたどって歩くのが一番歩きやすいのだけど、後ろからクルマがやってくると道を譲らなければならない。それは掻き寄せられたために50センチ近くも盛り上がった、雪の壁を踏んでいくことになる。私のショートブーツはノリ面が20センチほどしかないので、すねの辺りまで足がのめりこんでしまう。

スラックスをゴム長にたくし込んで歩くのがどうしても視覚的・感覚的に許されなかったので、あたかも普通のクツを履いているかのように見える黒のショートブーツを買ったのである。それが旅の者が持ち勝ちなしょうもない見栄であることが判明した。

同じようにオフィス街を目指すサラリーマン同胞は、魚屋が履いているようなゴム長にスラックスの裾をたくしこんで、短靴を入れたスーパーの袋を持って歩いているではないか。所によっては膝丈までも積雪してしまったら、脛が濡れて冷えることを避けるためにも、その結果として冷たい雪片が靴の中に侵入してくることを防ぐためにも、ゴム長は必需品なのである。




白鎧々。ほんとは金偏でなくて白偏なんだけど、そんな響きがふさわしいような厳しい冷たさがあった。昼食を取りに出かけたとき、地鉄ビルのデジタル温度計は摂氏2度を表示していたのである。
やっぱりこれだけ積もるときはそれなりに寒いんやなあと、同僚を振り返るにあまりこの冷気に参っている気配もない。

「雪が降ったあとのほうが暖かいんですよ。昨日まで大阪にいたからじゃないですか」
こちらで寒いのは雪が振り出す前、霙加減の雨が強風とともに吹き付けてくるときらしい。摂氏での表示が同じ2℃でも体感温度が全く違うという。関西ならばむしろ、真っ青に晴れ渡った冬空のときに放射冷却現象が起きてぐっと冷え込むのだが、日本列島オモテとウラでは正反対のことがおきると見える。

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