連用形か未然形か

方言というものは私にとって心地よくも楽しいものである。とりわけ独特のリズム感で構成される富山弁には、シンコペーションの効いた楽曲を聴くがごとき快感がある。
「まいどはや、そくさいけ?」
「こちゃ外国語じゃない日本語ながやし」
「でもそんなながゆってもねえ」
「やるしかないがいちゃね」
「免許証見せられま。こっち来られんが。何しとんが」

富山市へ住んでひと月が過ぎ、人の口からだけではなく、街角にも富山方言に基づくコピーワークが頻出していることに気付くようになった。
来られ、見られ、食べられ、といった語尾に「られ」をつけるのも富山流なのだが、そのものを
名称にしてしまうものもある。

コラーレ:黒部市国際文化センター

みらーれ:新川市ケーブルテレビ

ちなみに国道359号線沿いにある、延べ面積12万平米を誇る巨大ショッピングモールは

ファボーレ

と名づけられているが、富山弁との関係性は確認されていない。ラテン語の「好き」から由来しているらしいが、担当者に音韻学の知識があったとしか思えぬ語感に対するセンスである。休日にはここを目指してくるクルマで渋滞が発生しているほどで、そのために中央通りの商店街は壊滅シャッター通りになってしまった。多分ご当地言語では「終わらーれ」ってとこかな。

で、この「られ」なのだが、「られる」を尊敬とするか受身とするかで言うと、多分慎み深い富山県人のことだから尊敬表現なのだが、連用形か未然形かが良くわからない。富山県の国語学会でも長年の謎であったに相違ない。しかし私は居住したばかりで、まだ冷静な第3者の視点を持つ男である(これを第3の男という)。新聞紙上に、街角に乱舞するこの名詞に反応してまった。

カターレ

これはJ2のサッカーチームで公式名を「カターレ富山」と呼ぶ。たぶん、

勝たーれ

から来てるんだろうな。でもこのチーム、ホームゲームでめっぽう弱くて県民の期待を裏切り続け、動員数を漸減的に下降させているのである。希望むなしく勝利未だ然らず。そう、未だあり得ない状況を表現しているから、富山県の「られ」は間違いなく未然形なのである。

コメント

このブログの人気の投稿

二日酔いに劇的効果(個人の感想です)オロナミンC。一年計画で歯医者へ。麺類は続く。

牛鮭定食万歳。自宅で吉野家の味を再現。

ラーメンがつなぐ富山と久留米。「南京千両」一代記。