角田光代・井上荒野・森江都・江國香織の競作を堪能「チーズと塩と豆と」。当代一は関川夏央。老いたり椎名誠。哀しみの川端康成。今週の本棚。

「チーズと塩と豆」はヨーロッパを舞台に「食べること」「恋愛」をテーマにした競作集。天気大荒れの日曜日にソファーで寝そべりつつ楽しませていただきました。

角田光代は戦闘的に食事を作る女を。戦地に僻地に炊き出しボランティアにでかける、ミシュラン三ツ星レストランのお嬢様。シェフたる父に反抗して・バスクの因習から抜け出して、砲弾飛び交う中で鍋をふるう。「だって最後の一食だとしても幸せに美味しいことができれば」「数十日後・数年後の復興だって今日の食事がなくて飢えてしまったらあり得ないのよ」その厳しさが恋人を遠ざけてしまう。

井上荒野は老教師と教え子のままごとみたいな恋愛~結婚が崩れていくさまを、イタリア・トリノからコモ湖のあたりの美しい山岳風景と描いて。ああ年はとりたくないと実感する私53歳。


森絵都はフランス・ブルターニュ(フランスの富山と言われる田舎)を舞台に、母親との桎梏と息子と故郷回帰を一枚のガレットに託して。ブルターニュの奇習が富山のさまざまに重なって私には二重におもしろかったな。

江國香織は「男と男の愛情・嫉妬・世界観」で、簡単にいえばボーイズラブなんだけど、これは肝心かなめの部分が体験不足でようわからん。女のサイドから「男同士ってきっとこうなんだ」と描かれているようだけど、ごめんなさい、皮膚感覚として共有できない。


後輩の野球ファンから勧められて、アマゾンの古書コーナーからお取り寄せ。1960年代にもしも阪神タイガースと阪急ブレーブスが日本シリーズで相打つことになったらどうなったか。文体が1960年代SFで(上梓されたのもそのころだから仕方ないが)、筒井康隆のスラップスティックからエロとグロをなくしたような。しかしこのへんの本を面白がっていた連中はいま65歳~75歳の年金受給年代なんだなあ。この国を好きなようにしやがって。




私が今時点で最も好きな文章家といえば、関川夏央にとどめをさす。どうやったらこんなに明快に文章日本語をあやつることができるのか。北朝鮮・韓国・中国に対して冷静かつキチンと批判的であり、かつて積み上げた膨大な取材が、その三つの国が持つ哀れなまでのバカバカしさをそれこそ清明な文章でつづっている。




当年きって69歳の椎名誠翁がしたためたエッセイ集。もともと頑固なたちだったのが、歳とともに頑迷固陋と猛烈なまでの自分勝手がきわまってきている。ああと一回り年をとったら自分もこうなるかもしれないと、自らに対する警告の書として読んだ。あと「さらば新宿赤マント」を読んだら、もう椎名誠の新作を買うこともなくなるんだろうなあ。



川端康成。この人が生粋の大阪人なんて、後世の我々には思い難いものがある。さて、タイトルの割に小説の中身は「美しく」はないけれど、ヒトは哀しみと裏切りの中で男女関係をおりなしていくのだなあ、という普遍の真実はよくわかる。この小説が書かれる前年に私は生まれたのだけど。「哀しみ」と言われるもののなかには「あはれ」があり「をかしみ」があり。「勘違いから来る無益なひとり相撲」なんてのも入るかもしれないね。





次のヒマな休日はいつだろう。まだまだ書棚には三浦しをんの新作も、「岳飛伝」の第6巻も積んだままになっている。まあいいや、もうすぐ北陸は雪の季節。馬力をかけて読書に励むこととしよう。

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