不条理的読書日記 あなたの獣=あなた除け者

カミュの「異邦人」を読んだとき以来の不条理感漂う小説だった。主人公の櫻田哲生は、誰のためにも生きていない。自分のためにさえ生きていない。主体的に他人とかかわることを拒否して、ピスタチオのように、ちょっとだけ表情を出して殻にこもって生きている。


きちんと就職するでもなく、妻の出産にあっても父としての自覚をもたずにそのポジションから逃走を図る。その行き先はかつての婚約者で、いまや離婚経験者にしてシングルマザーである。櫻田哲生に人生を破壊された女なのに、櫻田を庇ってやったりする。女にモテるわけではないが、あまりに無責任な存在感のなさが「傍にいて鬱陶しくなく」て、三日目の猫のように囲ってもらえる事態を生起させる。女から女へと渡り歩いて、恋愛でない生殖行為を繰り返し、猫のように無節操に子供を残してゆく。

カミュの「異邦人」が、キリスト教倫理社会からの「除け者」であるように、櫻田哲生は勤労と家族制度に支えられている日本型資本主義社会からの「除け者」である。そして、不条理劇がしばしばそうであるように、社会に対するぎこちない不恰好さはその動きのこわばりから「高度の滑稽」をもたらしてしまう。

あまりにこわくておもしろくて、日曜の午後に一気に読んでしまった。

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