肉厚の生姜焼き

たまに行く定食屋が満員だったので、近所の「とんかつ洋風割烹・とん喜亭」なる妙な生業の店に飛び込みで入った。先週のことである。ラードで燻蒸されたようなお世辞にも清潔と言いがたい店内に、しまったと思わないでもなかったがまあ入店してしまったものは仕方がない、一度の昼飯を損したと思えばいいと観念した。ちょいとスタミナをつけたい按配だったので、ビタミンB群を摂取するためにも豚肉を摂取しておくのもいいかと気持ちが動いたこともある。


朝の散歩時に撮影


ロースカツやヒレカツもあったのだが、五十路にはちと重いのと「生姜焼き」の文字に惹かれたこともあってそいつを注文した。1150円。諸事物価の安い越中にしてはなかなかの値段である。

同行した支店営業の二人と、よしなしごとを話すうちに尤物(ゆうぶつ)がテーブルに届いた。肉の厚みが15ミリはあろうか、丁寧に筋切りがなされた肩ロースが一枚分、切り分けられて大皿にならべられていた。私がたまに自宅で焼くステーキよりも大きい。表面はカリリと焼き上げられているけれど、内側はほんのりとピンク色で脂肪の層が昼下がりの日光に光を返している。新キャベツの刻んだのもは葉もの急騰のご時勢にかかわらずたっぷりともりあげられている。

あまり歯が丈夫なほうではないのだけれど、かじりついた肉片はいかにも豚肉ですよ、という律儀な歯ごたえも最小限に、あきれるほどにジューシーに焼き上げられていた。醤油と酒と生姜汁に味醂の甘みをまといながら、肉と脂をシンフォナイズさせるタレの味わいもたまらない。飯の進むことといったら。あまりに幸福なひとときであったので、帰社してから若手大食い頭の垂逸君に「えらい店を発見した。貴君の特大胃袋も満足必至」とふれこんでおいた。

これがふられた「マミー食堂」近隣のOLでいつも混雑


そして本日。垂逸君から「あそこ行きましょうよ」と誘いを受け、再度訪問となった。前回は座敷でいただいたので調理風景を見ることが出来なかったが、本日はいささか時分どきを外しての襲撃だったので、カウンター越しにプロセスを検分することができた。

焼き手は40代半ばとおぼしき、細めの女性。一切れ200グラムはあろうかと言う肩ロースに、扇状に切れ込みを入れ、さらに細かい筋切りをして、熱したフライパンに肉塊を投入した。焼き加減を見ながら火を調節し、余分な焼き脂を捨ててのちに調合済みのタレをそそぎ、無造作に見えて細心の作業を経て、肉が焼きあがった。豚肉は焼き縮みするので、150グラムほどの仕上りか。

もちろん本日も絶品であって、まことに充実このうえない昼食となったのである。しかしビジネスの世界にあまり幸福はランチは似合わないものであって、午後は戦闘意欲の低減に悩むことになってしまった。禍福はあざなえる縄のごとし。
牛肉なら、ちょっと生焼けでも何とかなるけれど、火を通さなければならない豚肉でしかも相当な厚みをもつ一枚肉をギリギリの加減で焼くことはなまなかの修行でできるものではない。プリア・サヴァランが「味覚の生理学」で記していたように、焼肉には天才の技量をを要するのである。

凄腕のテロリストのごとき才能の持ち主が、かような路肩の居酒屋に潜んでいようとは。越中の食事情もどうして在住半年くらいでは掴みきれない深さが存在しているようだ。


我が家の真裏にある。ボリューム一筋の店。

こちらは、ヤキメシに業務用らしきカレーをぶちまけて「カレー炒飯」と名乗るし、厚切りのチャーシューと目玉焼きをご飯に乗っけた「チャー丼」を創作したり。メニューのジャンクさでは他の追随を許さない「ハッピー食堂」。

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