街角のテロリスト

何気ない見かけに怖ろしいほどの精力が傾注されていることがある。大阪南森町のうどん店「てんま」のきつねうどんがそれで、素材一つ一つに掛けられた厳しい選択の目と、ためらいなく施された手間はほとんど静謐な狂気を思わせるものがある。




店は堀川戎神社に近接する。店主は船場丼池筋の名店「松葉家」で修行をした人で、きつねうどんの始祖といわれる故宇佐美辰一氏の指導をうけている。店構えも凡庸で、なんてことのない街角のうどん屋ながら、何を試しても他の店を一線を画す。熟達したテロリストのごとき完璧な仕事ぶりなのである。




「松葉屋」直伝であれば、昆布の熟成から麺打ち用の粉はもちろん塩の種類、仕込みに掛ける水の選択まで拘泥しているに相違ない。しかし一杯のきつねうどんはこれ以上やさしい旨さがどこに存在するのかと思えるほど穏和なあじわいである。まあ鰹と昆布の味をとことんに引き出して、すするほどに感銘が深まっていく。

大阪うどんは、讃岐のような「口内暴力」的歯ざわりでなく、あくまでもまったりはんなりしたもので、それであってしっかりとした食感が伝わってくるものである。讃岐うどんがヤンキーのツッパリとするなら、商売と人情の機微を知った船場商人のオトナの風格である。

まあ、讃岐うどんの杉箸を飲み込むような乱暴なテクスチュアを喜んでいるのはガキのレベルだってことなんで。





ほんとに何の変哲もない、下町の街場の店である。この3軒隣に八ヶ月前まで住んでいた。家からほんのひとまたぎにこんな名店があった。いまは越中富山にいる。越中の良さもあるのだけれど、やはり故郷の味はなつかしい。独り自ら憐れむのみ。

コメント

  1. 甘木であります!2010年5月26日 23:03

    「口内暴力」という表現は一体どこから生まれるのか。何気ない一言に、その人の人と成りが見えるというが、深すぎて深すぎて、困ってしまう小生でした。

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