Women in black.

再び富山ブラックラーメン「大喜」ネタで申し訳ない。この濃縮醤油系激震塩分ラーメンは妙な回帰性を発するものらしく、どうにも二週間に一度くらいは軒先を潜ってしまうのである。



最近は大喜に行っても周囲を観察するゆとりが出来てきた。県民および県外からの来訪者でも、既経験者は振舞が落ち着いているから何となくわかる。「小!」「大!」「玉子入り、最初から」などと符丁を巧みに使い分ける。吉野家で「並!」「特盛つゆだく!」「並赤身!」などと特殊用語でオーダーがなされるのと似ている。

大喜初級者の私も見習って、少しでも練達の地元常連に近く見られたくて「小・玉子最初から・ご飯もお願い」と発注している。「小」は普通の店で「並」と言われるもので、ごらんの写真のごとくである。太めの固麺が一玉入れられている。刻まれたチャーシューがどっさりと、何を思いけん塩抜きをするばかりかあえて塩辛く煮込んだシナチクが入っている。

まあその衝撃的なしょっぱさは前稿Men in blackをごらんください。ニーチェの超人思想もさながら、善悪の彼岸をきっぱりと峻別する、ワグナーの序曲のごとき破壊力はなんとも暗黒からの誘惑にも似ている。白黒・敵味方・保守革新を明確にとらえる厳しさがないと越えていけない大きな壁を感じさせる日本全国唯一無二のラーメンなのである。

さて昨日も二日酔い気味のアタマをはっきりさせるべく性懲りなく大喜に行ったのだけれど、まずは最初から生卵をスープに入れてもらってこれをかき回し、すこしでも塩気を緩めてからとりかからないと、その先に前進できなくなる。最近は、そうやってマイルドにしたスープと叉焼、さらにシナチクをおかずに炊き立ての白飯をかっ込んでいき、その合間におそるおそる麺を啜っている。脳天を直撃する極端なナトリウムイオン値は簡単に慣れるもんじゃない。

それでも、達人は居るもので昨日も私よりあとにカウンターへやってきた40歳がらみのおっさんは何のためらいも無く「大」を注文し、フクザツな食べ方で塩気と格闘する私を尻目にして、よりダイナミックに、よりスピーディーに麺の量が2.5玉をスープともども何事にかあらんとばかりに、いかにも普通に平らげて行ったのである。

一方で私の一席置いて右隣に位置したどうみても50代なかば以降のおじさんは、カウンターに堂々とデイパックを載せ、リコーのGR1とおぼしきデジカメでこのラーメンを撮影していた。まあまちがいなく小生に似たブロガーと言われるたぐいの人間である。

何の因果でかは知らないが富山にやってきて、名高き大喜をおとずれ、富山ブラック如何ほどのものぞとばかりに発注し、ブツが届くやいきなりにシャッターを切ったに相違ない。見れば上下をかき混ぜることも無く、いきなりフツーのラーメンのごとくスープと麺を啜りだしたのである。

咳き込む声が聞こえてくる。まあシロートがいきなり取り掛かったらそうなるわな、と実は自分自身の大喜経験がまだ4度しかないのに常連気取りで思った。そして私の注文に生卵があったのを聞きつけて彼はオプションでそれを注文した。大喜では「最初から」とか「スープに入れて」とか言わない限り生卵は小皿に割りいれて供されるようだけれど、隣の彼はなんじょう、その玉子をかき回した挙句に、まるでスキヤキのごとく麺や叉焼を玉子にくぐらせて食べ始めたのである。

うーんクリエイティブな食い方だなと感じ入りつつ、しかしちょっとそれは違うやろと。そんな我流の食べ方をしながらもおっさんからは「塩辛すぎる」「信じられん」「だれが食うんだこんなもの」などという呪詛の言葉が合間合間に聞こえてくるのである。席を立つに要した時間から推するに、半分も召し上がっていないと思われる。ご自身のサイトにどんなことをお書きになったのか知ってみたいもんである。味は通ずる者のみに輝くという名言を知っておられればよいが。

しばらくすると、これも間違いなく他県出身らしい私の姪っ子くらいの、高校三年からまあせいぜい20代初頭くらいの、かなり垢抜けた格好をした女の子が二人連れでやってきた。私が持っているくらいのまあ安いデジカメともう一人は携帯のカメラでラーメンを撮影している。これもブロガーかもしくは各所にメールを送りまわるつもりなのか。みくしぃかも知れないね。

うーん若い子のはしゃぐ声はいいもんだと思った。塩辛汁にむせつつ飯をのどに押し込みつつ、歯ごたえ充分の麺を嚥下しつつ(この一連の楽しさが大喜マジック)、二人の様子を肩越しに見ていたのである。まあさんざん写真を撮って、ラーメンを見ての感想を語り合っておいおい冷めるぞといいたいくらいの時間を置いて、ようやくにぎやかな二人が箸をとった次第で。

おもむろに麺を口に運んで以来、二人の会話はすっかり途絶えて沈黙の中水をあおりながらひたすらにあの過酷な食事に取り組んでいるのである。しかし偉いことに彼女たちからは呪詛の言葉も無く、何かに耐える表情をしながらも着実に箸は進んでいたので、うん若いねーちゃんもやるもんだわさと感服しつつ950円のお勘定を払って店をあとにした。



コメント

  1. 食べたくなってきました!
    大阪までメンインブラック出前してください!

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