おわら風の盆

9月1・2・3日は「おわら風の盆」で、越中八尾の狭い坂の町に15万人もの観光客がやってくる。富山に赴任した以上、これだけは外してはならん、と前任者からも言われていたので昨夜早速見物に出掛けることにした。

「おわら風の盆」は、二百八日の強風が稲を吹き倒すことのなきよう、豊作豊年を祈った盆踊りがその始まりとされる。ただ、養蚕加工業で町民の生活水準が高く、浄瑠璃・長唄・三味線などの素養をもつ人が多かったことで、全国稀に見る「見せる盆踊り」が発祥した。



「おわら風の盆」を見物するには、日中に演舞場や八尾小学校のステージで、整然と踊る姿を座席や桟敷から見る方法がまずある。おおむねの観光客は、観光バスを連ねてやってきて、盆地特有の蒸し暑さに炙られながら、汗だくになって見物する。しかもあまりの観客数のため後ろの方からは編笠の端っこしか見られなかったりする。

で、午後9時頃には疲労困憊して再びバスに乗り込み、富山じゃ宿泊施設が足りないので、金沢およびその周辺に泊まることになる。富山にカネは落ちず、商売上手の石川県人が余録にあずかるという、いつもの北陸のビジネススタイルなんだな、これが。




さすがに私もケンミンとなって約1年。さまざまに知遇を得たことで、正調「おわら風の盆見物」を知るに至った。日中は他県民にまかせて、深夜以降の「町流し」を楽しもうというものである。

八尾は11の「町」から構成されており、それぞれの町ごとに踊りのスタイルが異なり、ユニフォームである浴衣の色・デザインも違っている。なかでも鏡町はかつての色街であったこともあり、踊りが優雅であり、また男踊りと女踊りが微妙に交錯する艶っぽさもある。

我々は(奇特な同行者がいてくれたので)、富山市内の居酒屋「わらい屋」でビール・焼酎を飲みながら時間調整を行ない、阪神横浜戦の2試合連続2ケタ得点を確認したうえで富山タクシー・通称富タクの乗客となった。



JR高山線も臨時列車を増発しているし、富山地方鉄道・通称地鉄もバスを特別ダイヤで運行しているけれど、いずれも乗車率200%などという恐ろしい事態となっているらしい。またJR越中八尾駅・地鉄バス停から、中心部である諏訪町・東町まではひたすら上り坂を延々と歩かなければならない。八尾は坂の町なのである。

いささか費用がかかるが(富山駅前から約6500円)、「おわら風の盆」を楽しみたいなら、観光客が帰った後、午後10時以降を狙ってタクシーで参上し、深夜あるいは明け方まで楽しんで、やはりタクシーで帰るのが正解である。誰か同行者を探して割り勘で行けば何ということもなかろう。


鏡町の一角に設けられたステージ?なり。三味線・太鼓・胡弓が囃し方となる。この胡弓があるのが「おわら風の盆」の特徴で、独特の哀愁感漂うしらべが秀逸。




歌い手。「正調」「字余り」などいろんなバージョンがあるらしい。一人がずーっと詠唱しているわけではなく、何人かの男女が歌い継いでいく。バスありテノールありコロラテューラまであらゆる音域が披露される。胡弓のもの悲しい旋律と、広い音域のおわら節が絡み合いながら、坂の町をころがっていく。



男踊りである。勇壮な感じでなく、切れ味とテンポ感が素晴らしくかつ優雅。田んぼの上を舞いながら飛び交っている鷺のように見えなくもない。生半可な修練で踊れるものでないことだけは、舞踊にまったく明るくない私にもすぐにわかる。



こちらは女踊り。じつは最後尾に位置する踊り手が私の会社の社員であります。彼女の伝手を得ることで、僥倖にも最前列の身内席で観賞することができた。感謝いたします。夜11時半というのに見物人が十重二十重に取り巻いており、中々近くへ寄ることができないのである。

ただ、こういう場所なので写真撮影はOKであるものの、フラッシュはご遠慮するべきなので写真が不鮮明であることをお詫びします。



左手前にどっかの放送局がいて、βカムを振りまわしていた。おかげで写角がとりづらく、アングルに苦労した。まあ本人はおのれの網膜で、しっかりとすべてを海馬に焼き付けているからいいんだもんね。



午前1時頃の八尾旧市街地中心部。蔵造りの家が並んでいる。なんか京都の祇園甲部建長寺周辺を思い出した。いまどきの祇園町より余程品性があるけどね。やがて、この通りに各町から「町流し」がやってくる。沿道に腰掛けて、ビールや日本酒をやりながらおわら節を聞き、踊りを眺めるのは至福と言っていいと思った。




手に手に得物を持って。手ぶらの人間が「歌い方」。日本古来床しく「すり足」でゆっくりゆっくり町流しが動き始める。




石畳を踏んで、夜の町におわらが浸透していく。一行を見送りながら、ええもんやなあ、と感傷の底になにかがきちんと沈んでいく感覚があった。ほんまに、ええもんです、これは。などという間に暗闇の中からまた哀愁を帯びた調べが漂ってきて、別の町から来た一行が眼前を通り過ぎる。




午前2時を過ぎて、富山市内へ戻り明け方までやっているバー「sure shot」でよく冷えたカンパリ、さらにウオッカリッキー、とどめにぺルノーをやっつけた。何時に帰宅したことやら。万歩計をチェックすると、1万5000歩ばかり歩いていた。深くて素敵でいい夜だった。あ、翌日は当然有給休暇にしております。

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