不倶戴天の敵じゃなかったのか

一週間前の北日本新聞コラム「天地人」に椎名誠の小説「モヤシ」が紹介されていた。北日本新聞と言えば富山県の県紙であって県内シェア67%を誇っている。当地を代表する言論機関である。この新聞がその表紙にあの椎名誠を引用しているのである。

幾年前か忘れたが、週刊文春連載のエッセイ「新宿赤マント」で、何しろラーメン熱愛家で知られる椎名誠が、何かの折で訪ねた富山で食べたラーメンを「コノヤロ的にまずい」と書いて物議をかもしたことがあった。ラーメンおたくだけでなく、県民あげてのけっこうな騒ぎになったと記憶している。多分それ以来この麺類異常愛好家の作家にとって富山県は鬼門になっていた筈である。また県内においては「コノヤロ的にまずい」と言わせしめたラーメン屋はどこであるか、かなり積極的に捜査活動も行なわれたようだ。

私は富山ラーメンを卑下するものではない。金属バットで側頭部を殴られたかのごときショックをあたえる、まあ凄まじい塩分を誇る大喜のブラックラーメンも完食する勇気はまだ無いけれど決してまずいものとは思わない。あれはあれで、白飯を頬張りながらぐいぐいと食っていくと生きものとしての人間の野性を呼び起こす結構な食べ物である。たまには食べたくなる回帰性を持つ、いい過激性があって普遍には縁遠いがすぐれた特殊であるとおもう。

まあ自分の解釈はどうでもよろしい。

県を代表する言論機関が、幾年もの冷戦をすてて会社を代表するコラムで不倶戴天の敵を評価して、かなり好意的にその著作を紹介したのである。東西冷戦の終結というかボーダーレス社会の到来というか、ベルリンの壁はここに倒壊したのである。「さらば国分寺書店のオババ」以来、27年にわたる椎名誠ファンのひとりとしてこの融和を歓迎する。
ところで「モヤシ」は、尿酸値上昇に痛風を予感して食生活改善をはかる初老の作家の物語でいわゆる私小説であるから事実に近いものだろう。尿酸値に異常は無いが、この作家の食生活には興味があったので、さっそくアマゾンにコンタクトして入手してみたのである。

で、本を読んでから食べようとして一昨日に「アルプス名水モヤシ」も入手していたのではあるけれど、一昨日の日曜日は豚シャブを作っても八尾白菜を食べるので精一杯でモヤシまでアクセスできず、月曜日はモヤシと一緒に豚バラを炒めようと駅前のスーパーまで赴いたものの、実は定休日であったらしく門前払い。寒風と失意のなかもう1軒のスーパーに行く勇気は覚束なくて、結局駅前の呑み屋街である桜町を彷徨った挙句に「おでん」の赤提灯に誘われてしまったのだった。結果的にこのおでん屋はきわめて誠実なおでんを出す店であって、今後も訪問を重ねることになりそうだけれど、また豆腐一丁丸ごと炊き上げた過激な一品を隠し持つ中々に面白そうな店ではあるけれど、もう幾度か通ってから稿を改めたい。

で本日火曜日。やっぱ寒いのよねえ。しかも結構な雨でございまして。日本海側の冬模様早くも満開状態なわけなんですわ。7時半ころ帰宅したんだけど、もはや買出しに行く元気もあらばこそ。そうそう日持ちしないモヤシもあったわね、ってわけで。
もう、冷蔵庫にあるもの総動員って感じですね。味の素の中華スープで出汁とって、酒と胡椒出味を調節して、刻んだキャベツ・生椎茸・モヤシ一袋に、これまた冷凍してあったご当地名物のとても分厚い薄揚げ(これは二律背反とアンチノミーに対する哲学的挑戦とでも言うべき独創的食品である)を刻み込んで、ついでに特売で買った韓国産キムチをどっさりブチこんで鍋にしてしまった。一人住まいの面倒くさがりにとって冬場の鍋料理はこれとないシェルターである。まずあったまるし、ビール焼酎日本酒などのアテになるし。

本棚の「モヤシ」はまだ数ページが開かれたに過ぎないが、現物の暗室生育植物はこの中年男にインフルエンザ感染予防となるビタミン類を豊富に供給してくれたうえに、その胃袋までも満たしてくれたので、かの行動派作家には感謝このうえない。また、このすぐれた食材を恩讐を超えて論じてくださった北日本新聞にも満腔の意を持って謝意を表するものである。

ただね、「天地人」の担当記者には少しだけ申し上げたいことが。
豆芽系食材を取り上げてからわずか一週間で今度は中華料理を取り上げて熊の掌のスープと燕の巣のスープ、さらに蚊の目玉のスープに言及して「ある作家がエッセーに書いていた」と孫引きしていたけれど、開高健だとはっきり書くべきですね。正確をモットーとする新聞社がニュースソースを明示しないでどうすんのかなあ。演出かもしれないけどちょっとね。
それと、中国やモンゴルで採れる「髪菜」が鳥インフルエンザに有効らしいと富山大の成果を紹介しているけれど、まあそれあいいとして、「髪菜」は熊掌燕巣のごとき珍味ではなくて、中国の正月料理に結構使われる食材の筈なんだけどなあ。発音が「発財」と同じで、財を成すことにつながることから、縁起物としてあの元祖拝金エコノミック国民に重用されているんで。

コメント

  1. 官燕棧の燕の巣ラバーは女子だけではないようで。

    で、さらに、おねえちゃん曰く、これも毎日続けて食べなあかんのよ~。
    自然のものやから、すぐに効果はあらわれへんけど
    2ヶ月ぐらい食べ続けたら、めっちゃ美肌になるわよ~とのこと。

    はい、買いましたがな!

    ご家庭用、瓶詰め燕の巣!

    ただ今、毎朝、スプン一杯の燕の巣。
    さて2ヶ月後が楽しみだわん♪

    http://www.geocities.jp/hongkong_bird_nest

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