麺inブラック



ラーメンである。
富山には他府県にない驚愕のラーメンがあって、人はそれを富山ブラックと呼ぶ。
スープはイカスミでも溶かし込んだがごとき漆黒の闇。太くて硬くて生茹でかとおぼしき丸麺。普通は薄くスライスするはずのチャーシューは、まったく不規則に乱切りにされ、ブロック状になって麺の上にころがっている。発注単位がまた変わっていて、小(並)→大となる。

ここで断っておかねばならないが、富山における麺の重量は少なくとも大阪とは異なる。
スーパーで購入するうどん玉の重量が、関西では概ね150グラムなのだが、こはいかに、こちらではなんと200グラムが標準となっている。
関西感覚でうどんにおにぎり・かやくご飯・いなり寿司などを追加しようものなら、普段と違う満腹感覚を経験することになります。
そういえば市役所の北側に滋賀県の名店とおなじ呼称で「鶴喜」なる蕎麦屋があって、先日
うかがったのだが、天ぷら蕎麦を注文した私に、
「あの、今年は蕎麦をしないんです」と店員が平然として言ったことだった。
店内の掲示板にいわく
「今年も気に入った蕎麦粉が入手できなかったので蕎麦の営業は見送らせて頂きます」
で、うどんにするのかUターンして帰るのかどっちよ、と問いかけんとする店員に、
まあ、ハラもへっていたからうどんでも結構ですといって天ぷらうどんを発注したのだけれども、それはそれは、半透明上にしてしかも非連続的にびらびらとした、イタリアで言えば手打ちのリングイネの如き格別の手打ち麺を頂いたのでした。
たっぷりの昆布に、うるめ節などが効いていると多分おぼしき、けっこう透き通った出汁も味わいたっぷりで、なんともコシがあってそう、かつて中国山西省で食べたことのある刀削麺とか撥魚児のごとき4000年の歴史を誇る伝統のの麺の歯ごたえととも言える様な、正に端倪せざるべからざるいい経験であったわけですけど。量の問題を隣に置けるのならば。
やかん一個が入りそうな格別のサイズの丼には、まあ、2玉分以上のうどんがからまりあっておりまして、中には愛を誓い合った麺条が合体したまま茹で上がって団子になってしかも中はまだ固形状で生茹で状態なんていうほほえましき風情もあったのですが、とても私ごときが完食できる相手ではなく、志半ばにして憤死してしまいました。
ええと、断り書きが長くなるのは性分だから仕方がないので、ご勘弁を。

で、店名も表記してしまいましょう、富山駅近くのラーメン「大喜」。
ここのメニューはだから親切にも小(並)→大と進化するのです。小で平均並みですね。
でも当店で課題なのは麺ではなくして、その漆黒のスープが半端でなく塩辛いということに集約されるわけなんです。生醤油をそのまま舐めたよりもしょっぱい、衝撃のスープがそこにたゆたっておりまして、そこへ故意に塩抜きをしていないメンマが加わり、強烈塩味のロードウォリアーズとしてタッグを組んでいるわけですね。
まあ初めて挑戦したときは塩味のパンチが側頭部を直撃してしばし思考停止状態におちいり、高血圧患者ならそのまま天国からインビテーション・レターが送られてくるんじゃないかと思ったほどでした。
しかし危ないものほど近づきたくなるのがどうも人の性であるらしく、誘蛾灯にあつまるかげろうのごとく、一度体験してみると、こわごわ二度三度とその門を叩くことになるようです。
まあそういう私も危険を押してまた訪れてしまいまして、いまや遅しと丼が届くのを待ってしまうわけなんですね。おまけに太麺なんで、時間のかかることったら。

こいつがテーブルに届けられたなら、美観を問うことなく、全体を撹拌してまず塩気を分散させるのが君の第一のミッションで、もし君が事前にこの恐怖の塩加減を知っているなら、店員に味、薄めで」とオプションを依頼することも可能ではあるけれども。
ただし、店内にユビキタス状態に偏在する常連客から「薄めるくらいならこの店に来んなよなテメエ」の如き視線を浴びせられること必至なので、私は見栄っ張りだから、平然を装って、「玉子入れてね」と言って、幾分なりともせめて塩分を緩和しようとするのですね。
そうそう、このラーメンはもともとご飯と一緒に摂取することが前提だからライスを発注することを忘れてはなりませぬ。豚肉感たっぷりの乱切りチャーシュー、五ミリ幅くらいにアバウトに刻まれた白葱、メンマをおかずに、硬く歯ごたえのある麺を食欲のリズムを刻むシンコペーション代りにして、随一の塩分緩和剤としてノドに放り込んでいくのわけで。
時まさに、越中は新米の時季。立山の伏流水で炊き上げられた、光沢も見事な粒だったご飯
は強烈な塩味をしっかりとうけとめて、その塩気を口中でアミラーゼの甘味と化したコメの旨みを更に倍加させる一助にまで仕立て上げて影の主役として君臨するのです。
かくのごとくして、一心不乱に塩気の緩和と格闘するうちに、はていかなる魔術でしょうか、スープ以外は丼から姿を消し、手もとの飯茶碗も空っぽになり、ただただハラだけが立錐の余地もなくなってしまうわけなんです。うしろめたいくらいやばいですね、こんな食事のあとの充足感ったら。

コメント

  1. 福島県で食したラーメンも同じく、黒く塩辛いものでした。口直しにと副えられた浅漬けも塩辛く、多量の水で対処した記憶が御座います。

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