佳品華宵

世の中にはたまにどうしようもなくウマいものがあったりする。きょうは土曜だと言うのに仕事で福井市まで出張していた。北陸三県のうち、富山県はどちらかというとスクエアなかたちをしているけれど、石川と福井は日本海に背を向けてホリゾンタルに寝そべっている。東西にやたらに長いのでありまして。

なんとなれば東京や大阪に暮らす人間にとって北陸三県など、ほとんど向こう三軒両隣みたいなもんで、三県間を往来することなど寸時のうちと解釈されているだろう。私だって越中富山に住みつくまでは福井富山間なんて神戸から京都くらいのもんだと思っていたのだから。ちなみにJR西日本が誇る新快速電車で両都市間は52分で連絡される。富山福井間はサンダーバードの韋駄天をもってしても1時間半を要するのである。日帰り出張の範囲なのである。

壮麗なる福井駅。街頭イベントの跡

福井での仕事のあと、次のサンダーバードまでしばし時間があったので駅界隈を散策し、さらに駅の高架下名店街で「越前蕎麦」の半生麺を購入した。これは三県随一の蕎麦であって、湯がいて冷水で締めたところへ、大根おろしを汁ごとぶっかけて薄口醤油をかけまわしていただくと天下の美味である。出汁も味醂もいらない。料理とは調和の妙であることを知らしめてくれる。

しかし、この名店街で仕入れた至高の美味はこれではない。越前名産の練りウニなのである。この名品ぶりはつとに知られているけれどあまりの高価にいままで手が出なかったのである。本日購入したのはわずか20グラムで2500円の逸物である。100グラムを購うと12500円となる。

まあ五十路の誕生日を迎えたことやら、ここんとこの多忙ぶりに対する、あまり好きな言葉じゃないが「自分へのご褒美」で。かねて聞く一品を試してやろうと、迷いの背中を蹴りだすものがあったわけです。

原材料はバフンウニと塩だけ。これを100グラム製造するのに100個のバフンウニが必要となる。自宅に帰って、電子レンジであっためた豆腐、あぶった明太子のおろしあえでビールと日本酒を楽しんだあとに、前述のおろし蕎麦で食事とした。

あるていどお腹ができたところで、富山名産烏賊の黒作りとこのウニで立山の常温をいただいたのだけれど。黒作りはまあ、いつもどおりの美味であったものの、ウニの破壊力とは種子島銃と波動砲ほどの違いがあったのである。その香気、その深味、箸先にちょっとつけてなめるだけで口腔内に磯の香りが越前海岸の荒波を髣髴とさせながら再現されるのである。

ホンマに大匙ひとすくいの量やねん

銘酒立山の敵役として、存分するほどに演じきってくれた至味であるけれども、これはもう少しふくよかな酒、福井の黒龍あたりと戦わせてみたかった気もする。書類鞄の重さに液体の運搬を初手から回避したおのれの軽薄を恨まないでもない。それと、磯の香りに妙に符合するアイラ島のモルト、ボウモアとかラフロイグのカスクとも試してみたいものの、拙宅に在庫するウィスキーはサントリー角瓶だけなので、これも夢想の範囲となる。

まあまだ人生にはいささかの年月が残されている。再度越前に赴くときは、事前に黒龍とボウモアを酒棚に並べて置いておこう。いい投資をしたいい夜にもう一度乾杯するために。

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